美容師が会社設立するタイミングは? 法人化のメリット・デメリットも解説
美容師として独立し、軌道に乗ってきた頃に考えるのが「会社設立すべきか」という問題ではないでしょうか。
今回は、法人化すべきタイミングやメリット・デメリットについて解説します。
今のご自身の状況と照らし合わせながら、会社を設立する必要があるかを考えてみてください。
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美容師が会社設立すべきタイミングとは?
まずは、会社を作るべきタイミングについて確認しましょう。
法人化すると支出が増えて利益が減ってしまう可能性もあるため、目安として参考にしてみてください。
独立して間もない頃は個人事業でOK
起業・独立した場合、最初から法人化するメリットはないため、個人事業主としてスタートすれば良いと考えられます。会社を作るとその分必要経費が増えるため、売上が安定的に高くならない限り必要ないでしょう。
多くの美容師が、リスクを減らすために最初は自営業からビジネスを始めています。
また、事業を続けていくうちに法人化を考え始めるかもしれませんが、その場合のメリットやデメリットについてしっかりと把握した上で検討することが欠かせません。
いつか法人化できたらいいなあ
目安のタイミングは利益で考える
目安のタイミングとしては、利益が600万円以上の場合がおすすめです。これは全ての業種での共通事項であり、月あたりで50万円以上の利益が出ているのであれば、会社設立のメリットが大きくなるでしょう。
なかには「年間の売上が1,000万円以上になったら法人成りすべき」という人もいますが、このタイミングでは消費税の納税義務が発生するほか、経理がややこしくなるため顧問税理士との契約も必要になります。
また、赤字でも法人住民税の均等割を支払わなければならないため、経費ばかりがかかり、経営を圧迫させてしまいかねません。
そのため、売上ではなく利益で考えることがポイントです。
利益600万円の場合の売上としては、4,000万円から6,000万円ほどになるでしょう。店舗を経営している場合は、賃貸料に加えて材料費や人件費、広告費などさまざまな支出があるため、手元に残る利益はそう多くないはずです。
- POINT
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- 毎月50万円以上利益があれば会社設立のタイミング
- 売上ではなく手元に残る利益で考えていく
美容師が会社設立するメリット10選
ここからは、美容師が会社を設立する10個のメリットを紹介します。
社会的信用が高くなる
法人は個人事業主よりも社会的信用が高くなるため、仕事上有利になる場面が増えるでしょう。
資本金の払い込みや決算内容の開示が必要になるため、お客様から安心してもらいやすいことが特徴です。
個人の美容室よりも、会社が運営する美容室のほうがお客様から信用されるため、より安定的な利益が見込めるでしょう。
安心感って大事だね
税金が安くなる
個人の場合は、所得に合わせて最大45%(住民税を合わせると55%)もの税金を支払わなければなりません。
所得が高くなるにつれて税率が上がるため、せっかく売上が増えても最終的な利益は半分以下になってしまいます。
そこで、会社組織にすることで最高税率を抑えられるため、税金が安くなります。具体的には、次の通りです。
条件 | 税率区分 | 税率 |
---|---|---|
資本金が1億円以上 | 全てに該当 | 23.2% |
資本金が1億円以下 | 年間800万円以下の部分 | 15% |
年間800万円超の部分 | 23.2% |
利益があるなら会社にするほうが節税対策になります
経費の範囲が広がる
経費として計上できる範囲が広がるため、保険料を多く計上できたり、家族を社員として雇用する場合の書類提出が不要だったりします。
家族を雇用する場合、個人であれば青色事業専従者給与の届出が必要ですが、法人の場合は必要ありません。
また、個人は年間12万円までを保険料の控除として計上できますが、会社にすることで保険の種類によって3分の1から全額などの控除を受けられます。
さらに、役員への退職金は損金計上でき、所得を減らせるためかなりの節税効果があります。
- POINT
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- 計上する保険料の割合が多い。
- 家族雇用の場合、法人だと青色事業専従者給与の届出が不要。
2年間は消費税が免除になる
個人で課税売上が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が発生します。
しかし、この状態から法人化した場合でも廃業した個人事業と会社は別で扱われるため、基準期間の関係で2年間は消費税の支払い義務がなくなります。
2年後には支払いが必要になりますが、少しでも節税するための方法として有効です。
お得感があるわね
欠損金の繰越控除可能期間が10年になる
美容室の経営が、必ずしも毎年黒字で終えられるとは限りません。社会情勢の影響などで売上が大幅に減少してしまう可能性もあり、赤字になるリスクもあります。
個人だと赤字の繰越控除可能期間は3年しかありませんが、法人であれば最大10年間の控除可能期間を利用できます。
- POINT
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- 個人より赤字の繰越控除可能期間が長い(最大10年)。
融資を受けやすくなる
上述したように、会社になることで社会的信用が高くなります。これはお客様からだけでなく、金融機関からの信用も高まるため、融資を受けやすくなることが特徴です。
融資を受けることを予定しなかったとしても、リニューアルや新店舗出店などで、資金が必要になる場合があるかもしれません。
そのための資金調達の方法として、まず考えるのは金融機関からの融資ではないでしょうか。その際、法人であれば融資を受けやすくなるというわけです。
また、設備投資などに必要な資金も準備しやすくなるため、売上アップにも繋がるでしょう。
資金があるに越したことはないね
求職者を増やしやすくなる
美容室に限らず、就職先・転職先を探している多くの人は、勤め先に対して安定を求めているでしょう。
このようなケースにおいて、個人事業主よりも法人のほうが信用されやすく、求職者が集まりやすいことは言うまでもありません。
そのため、より優秀なスタッフを確保しやすく、今後の店舗経営にも大きく影響を与える要素となります。
- POINT
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- 法人のほうが安定した環境と見られやすく、人材も集まりやすい。
責任が有限になる
株式会社や合同会社などの法人は、責任が有限になります。
そのため、事業に失敗しても会社の資産を処分すれば良いため、個人に対する責任は発生しません。
個人の場合は責任が無制限に発生するため、万が一融資などで多額のお金を調達した後に廃業となった場合、自分の資産から返済していく必要があります。
ただし、法人が借入をする場合は連帯保証人に社長を設定する場合がほとんどであり、最終的には個人の資産を処分する必要があるでしょう。
- POINT
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- 廃業しても個人への責任は発生しない。
- ただし社長が連帯保証人となる場合が多く、個人の資産に影響は出る。
役員報酬を設定できる
個人の場合は売上額に対して所得税が発生しますが、会社の場合は役員報酬に応じて所得税が発生します。
このように設定された役員報酬で算出されるため、個人よりも所得税と住民税の負担を大きく減らせることが特徴です。
役員報酬をいくらにすべきかは売上によって異なるため、法人税・所得税・住民税それぞれの観点から考え、最も節税効果の高い数字に設定することがポイントとなります。
税金の知識は知らないと損だね
事業を継承しやすくなる
自分で開業した美容室を、従業員や自分の子供に継承することを考えている方もいるのではないでしょうか。
個人で継承しようとすると、莫大な相続税と贈与税が発生してしまいます。
その点において、法人化していると役員の名義変更のみで引き継ぎが行えるため、楽に継承できることがメリットです。
将来的な引き継ぎを考えているのであれば、会社設立を検討しても良いかもしれません。
- POINT
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- サロンを引き継ぎたい場合、法人だと税の負担がなく名義変更のみで行える。
美容師が会社設立するデメリット5選
メリットだけでなく、ここからはデメリットについても解説していきます。
法人化には費用がかかる
会社の種類にもよりますが、設立するためには費用が発生します。
株式会社の場合は、登記費用や印紙代などを含めると25万円ほどが必要であることに加え、さらに資本金を設定しなければなりません。
1円からでも資本金を設定できますが、それでは会社の信用が得られないため現実的には難しいといえます。
会社を設立するなら25万円以上が必要なんだね
1年間役員報酬を変更できない
役員報酬は毎期ごとに設定するため、設定から1年間は変更できない仕組みとなっています。
そのため、報酬額を間違えたり、個人的な都合で増減したかったりする場合に柔軟に対応しにくいことがデメリットです。
このような点から、役員報酬の設定は慎重に行う必要があります。
- POINT
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- 役員報酬は一度設定すると1年間は変更できない。
赤字でも支払う費用が発生する
個人の場合、赤字計上をした際の税金の支払い義務は発生しませんが、会社の場合は年間約7万円の法人住民税の均等割を支払う必要があります。
さらに、顧問税理士への支払いも発生するため、法人化のタイミングを誤ると負債だらけになってしまう可能性もあります。
勢いで法人化すると失敗するね
会計処理が面倒になる
法人の会計処理は必要な書類や計算が多く、煩雑であることが特徴です。
全て自分でやろうとすると大変なだけでなく、知識が必要になるため、税理士への依頼が必要になるでしょう。
できないことは頼ったほうがストレスないかも
社会保険料の負担が増える
会社を設立すると、社会保険への加入が義務化されます。
役員が1人の場合は全て自分が負担する必要があり、会社負担分と個人負担分の両方の保険料を支払わなければなりません。
- POINT
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- 会社では社会保険への加入が義務。
- 社会保険料は役員が全て負担する。
まとめ
今回は、美容師が会社設立を考えるべきタイミングや、法人化のメリット・デメリットを紹介しました。
個人と法人でそれぞれ特徴が異なるため、ご自身の場合はどちらがメリットが多いのかを考え、慎重に検討するようにしましょう。